コンテナのCafe。
黒いコンテナの中の絵のようなカフェ「INN CAFE」 沖縄・古宇利島
- 文・写真 馬渕和香
- 2017年9月25日
12年前に橋が開通して本島と地続きになって以来、移住者にも観光客にも人気の古宇利島。カフェは、嵐のCMで一躍有名になったハート形の岩礁「ハートロック」に向かう途中ののどかな風景の中に立つ
「スタジオを兼ねたカフェですので、お客さまにはどんどん写真を撮っていただきたいです。撮影会のノリで遊んでもらえたらうれしいですね」
そう話すオーナーの古賀智顕さんが、グラフィックデザイナーとして活躍していた東京を離れて、沖縄のこの地に自宅兼ハウススタジオを建てたのは7年前。リゾート感たっぷりの白くて明るい印象の建物が多い島に、なぜか真っ黒くて武骨なコンテナハウスを建てた。
「黒が好きだから、という単純な理由で黒にしたのですが、はた目には異様に映るみたいです」
入り口は無人で薄暗く、やや入りづらい雰囲気だが、思い切って上階まで上がれば、印象がガラリと変わるだろう
驚くのは、外観の色だけではない。長さ約12メートルの建築用コンテナ計16本を4層に積み重ねた古賀さんのコンテナハウスは、沖縄はもちろん、全国的に見ても最大規模。間近で見ると、思わずひるんでしまうほどの迫力だが、そんな巨大な鉄の家を、どうしてまた、四方を海に囲まれ、塩害が激しい沖縄で建てたのだろう。
「古い倉庫や工場をリノベーションしたような、倉庫っぽい建物をつくりたかったからです」
10代でインダストリアル・ミュージックと呼ばれる前衛音楽を聴き始め、東京に住んでいた頃は廃虚の工場などを趣味で撮影していたという古賀さんは、昔から「工業的なもの」に引かれる傾向があった。
「工業的なものが性に合っているのでしょうね。カメラも好きだし、車の改造も好き。その延長線上で、こういうテイストの建物を選んだのだと思います」
自宅をハウススタジオと兼用にしたことも、コンテナで建てることになった理由の一つだ。橋で本島とつながっているとはいえ、都市部から遠く離れた古宇利島で生計を立てるために、古賀さんはグラフィックデザインの仕事をしながら、レンタルスタジオも運営しようと考えていた。プロ向けの撮影スタジオをつくるとなると広いスペースが必要だが、用意できる資金には限りがあった。このため、他の工法より建築費が安いコンテナハウスを選んだ。
「今は法的な要件が変わってずいぶん高くなってしまいましたが、当時は、沖縄で主流の鉄筋コンクリート造と比べて半分以下の費用で建てられました」
こうして、望み通りの”安くて広い家”は建った。しかし、がらんどうではハウススタジオにならない。古賀さんは、国内外の雑誌や本を読みあさってインテリアのコツを徹底的に研究し、イギリス製のバスタブからアメリカ製のヴィンテージコンロや冷蔵庫まで、スタジオ用の家具や装飾品を海外からネット通販で直輸入した。
妻の歌奈子さんによれば、本業のグラフィックデザインでも、「入れるべき要素が多ければ多いほど、うまくレイアウトする」という古賀さん。集めた数百点のアイテムを卓抜したデザインセンスでコーディネートし、ヨーロッパのインテリア誌がわざわざ取材に来るほどのスタイリッシュな空間をつくり上げた。
ハウススタジオのためにそろえたアイテムは、3人の子どもを含む家族5人が実際に生活で使っている。「そのまんま使っています。お客さまによく、どこで生活しているのですか、と聞かれるのですが、普通にここで寝起きしています」と妻の歌奈子さん
年に20〜30件の利用があるスタジオを使ったカフェは、1年前にオープン。不思議なことに、小さな子ども3人を含む一家5人が暮らす住宅でもあるというのに、生活感はみじんも感じられない。歌奈子さんがその秘密を明かす。
「普通にここで生活しているのですが、ワードローブなどを見えなくするなどして、あるべきものをなくすことで生活感はわりと簡単に消えるものだと、私自身も発見しました」
マンゴースムージー(中央)は、県産のマンゴーとパインと無農薬バナナに、有機ココナツミルクとアガベシロップを加えたもの。左のグリーンスムージーは、13種類の県産無農薬ベビーリーフ入り。グラスは、口に触れた時の感触の良さで選んでいる
観光客はもちろん、県内でもまだ、知る人ぞ知る、という認知度のINN CAFE。今のところ、客は「思ったよりかなり少なめ」と古賀さんは小さくため息をつく。
「一日に数人いらっしゃればいい方ですかね……。デザイン屋を長年やっているくせに、”紺屋の白ばかま”で自分のことになるとからきしアピールが下手くそなんです。嵐のCMにでも使ってもらえたら、お客さんが増えるかな?」
一見、内向的な印象を与えそうな古賀さんだが、会話が弾みだすとユーモラスでお茶目な素顔がポンポン飛び出す。外観は黒くてとっつきにくいけれど、中に入れば絵のような空間で、身体に優しいドリンクやフードと、最高に心地良い風が迎えてくれるINN CAFEと、なんだか似ている。
http://www.asahi.com/and_travel/articles/SDI2017092138011.html
まるで絵画の様に綺麗な景色とうっとりする程の家具やアイテムが並ぶ
オシャレ過ぎるカフェ!
濃くて美味しそうなドリンクを頂けば最高なひととき間違いなしですね。
オーナーさんのこだわりがとても伝わってきます。
あじのある大きな建物はコンテナだそうですが、
コンテナがここまで趣のある建物になるとはびっくりです。
是非、行ってみたい!